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2018年4月18日(水)異常な金銭欲

離婚裁判の期日日。
ダイニングのカレンダーには、ばぁばの字で大きく印がつけてある。

ママは、台所でいつものように弁当を用意していた。
太朗は起きて来たのに、姿が見えない。
きっとばぁばと布団上げをしているか、ゴミ出しの用意をしているのだろう。
そう思って気にも留めていなかった。

弁当の準備が終わり、ダイニングの椅子に浅く腰を掛けた時。
ばぁばが太郎をはげますような声が聞こえる。
太朗は、暗い廊下を足を引きずるように歩いくる。

「どうしたん?」
私が声をかけると、
ばぁばが
「どうもないよ。」
と即答した。
あまり詳しく聞いてほしくないという様子を悟った。

家を出る前、ばぁばが耳打ちする。

「ばぁばが仏壇に手を合わせて、太郎とママを頼みます。
と言うたらな、太朗がなんで?と聞くんや。
だから、今日は裁判所やからな。というとな、
太朗がこんな事いうんたで。」

太朗はこう言ったらしい。

「もう大丈夫やで。ママも太朗も大丈夫や。」
「もうお願いせんでも大丈夫やで。」

ばぁばは胸の中でさぞ喜んだだろう。

大人の顔を読んでは、動揺し、いつも繊細に感じ、怯え、
不安と共存していた寡黙な子供が、
今や大人を安心させるようなことを言うようになった。

これまでは、私もばぁばも、太朗を、太郎の心を守ろうと必死だった。
太朗をシールドするために、太郎をかばうためなら何でもできた。

それがいまや、、、なんとも頼もしい。
そんなとき、太郎の後ろ姿に、勇者のような、凛としたたたずまいを感じる。


ママは11時半からの出廷に、1時間も早く裁判所についた。
代理人はつけていない。
主人方の弁護士と主人が出廷するだろう。
私は二人の動向をじっと見届けてやろうと、駐車場のど真ん中にとめた。
時間までは書類に二度三度目を通す。

5分前。先に部屋に入る。
時間に遅れて主人方の代理人が到着する。
いつもの変な中折帽を浮かせながら、「遅れましてすんません。」と会釈する。
「育ての母が亡くなりまして、東京から戻ってきたので遅刻してしまいました。」
私は、起立して「ご愁傷さまです。」とつぶやいた。

死は誰にも平等にやってくる。
そして家族の悲しみも平等である。
一瞬、私の対立感情が和らいだ。

主人は来ないらしい。
一審判決が出てからは、手のひらを返したように私を避けるようになった。
私と会うのが怖いのだろうか。

4月に入り、新しい裁判官が就任した。
ネクタイをかっちりとしめた、神経質そうな裁判官である。

代理人が裁判官に説得するように話し始めた。

「原告はお金もちでありましてね。しかし、現在所有している不動産の大半は父親から引き継いだものですし、現金収入と言っても大きなものは手元にありません。」
「一方、被告さんは、大々的にスクールをされていて、1憶もの大金を貯蓄されているみたいですから。」
「被告は、財産分与を避けたいがために離婚しないといっていると考えます。」

私は毎回唖然とさせられる。
そして、今この場で貶められていくのを肌身で感じる。
砂時計の砂が落ちていくのを見ているような感覚である。

嘘と作り話。
思ってもいないことを勝手に仕立て上げられる。

事実を守るため、私は、これを正さなければならない。
反論するのにどれほどの労力・気力を要するか。
戦う。

苦い顔をしていると、裁判官が口をはさんだ。

「んー、離婚をするか否かが決まっていない段階で、財産分与を決めても、
もし、しないという結論になったとき、財産分与に要した労力が無駄になるんでね。」
「財産分与については、論点にするか否かは裁判所で考えます。」

代理人が攻撃する。

「そもそも原告が離婚を考えたのは、被告のDVのでっちあげです。万が一、原告の養子縁組の偽造が証明されても、
それは、DVのでっち上げ以降に発覚したことですから、離婚の理由には入りません。」

裁判官が首をかしげ、冷静にこういった。

「離婚訴訟を起こされたその時点で、何が離婚原因か、ということですから。
原告が訴訟を起こしたのは、DV事件や養子縁組の発覚の1年以上後ですから・・・。」


裁判官が言葉につまったそのあとに何が続くのかを私は想像した。

・・原告、むちゃくちゃやな。結局は被告の財産狙いやん。

そう続いてほしい。
だってその通りなのだから。





















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