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2018年2月7日 判決の日

粛々とその日を迎えよう。
朝から頭の中に「粛々と」という一文字が、流れては浮かんでくる。
勝訴という確信がもてているわけではない。
しかし、敗訴なんてことがあるものか、とも思う。
やるだけのことはやった。
耐えて耐えて、耐えた先にあるものは、
たなぼたでも、ラッキーでもない。
当たり前の結果だと思う。

判決は9時50分に、法廷で言い渡される。
朝の身支度、太朗のお弁当・・
いつもと変わらないことを静かに済ませる。
バァバも私も口数は少ない。

昨日はバァバが一人で大掃除をしたようだ。
水回りはどこもかしこも小奇麗になっていた。

そして朝から仏壇の扉が開かれている。
バァバの中で時は満ちたんだな。
そう感じた。

私は静かに仏壇の前に座る。
遠くの部屋で太朗が騒いでいる声が聞こえる。
声に出してみた。
「おじぃちゃん、もうお願いはせんで。」
「見届けに、ついてきて。」
おじいちゃんは微笑んでくれたと思う。

太朗を保育園に送り届けてから、その足で裁判所に向かう。
裁判所の駐車場、車内で身支度を整えた。
自分を奮い立たせるためにヒールを履く。
リップを3回塗り重ねた。
顏をあげると、となりにバァバの車がとまった。
合図をするわけでもなく、静かな横顔がまっすぐ前を見ていた。

私たちは20分も前に第8法廷の前に着いた。
長椅子に腰掛け、一息つく。
2分前になると、黒いガウンをきた書記官が現れ、私たちを法廷内に招き入れた。
その後すぐに、主人が入室した。
来るとは思っていなかった。
よくぞこれたものだ。
判決には、どちらの弁護士も来ていない。
通常は誰も出席せず、書面で確認することが多いと聞いていた。

そうしているうちに、ひらりと裁判官が現れた。
それは喪に服した、黒い蝶のよう。
静かに判決を読み始める。
抑揚のない、淡々とした、ごく小さな声で。

”養子縁組無効確認請求を認める。”

それは数秒の出来事。
ど集中している私ですら聞き逃してしまうほど。

そして、書記官が告げる。

「終わりましたよ。」


私の聞き間違いではないか?
いや、これは「勝訴」に違いない。


私は表情も失うくらい力が抜けた様子だったと思う。
その時、主人は、にやっと笑っていた。

最後まであの人が何を思うのか、、
到底計り知れず、ただただ気持ち悪い。


駐車場まで戻ってきて、
バァバが私の背中を大きくさすってこういった。

「よう頑張った。よう頑張った。」
「よかったな、ほんまによかった。」
「普通の人間やったらとっくの昔に病られてしまってたで。」

10時15分。
弁護士の先生からの着信。
結果を報告する。

「おー、よかったな。よし、よし。」

先生の声を聞いて緊張がほぐれた。


ただ、まだ、

バァバも私ももろ手で万歳をする気持ちではない。
判決の主文が届き、その内容を確認するまでは。


そして今日も粛々と1日が終わる。


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