粛々とその日を迎えよう。
朝から頭の中に「粛々と」という一文字が、流れては浮かんでくる。
勝訴という確信がもてているわけではない。
しかし、敗訴なんてことがあるものか、とも思う。
やるだけのことはやった。
耐えて耐えて、耐えた先にあるものは、
たなぼたでも、ラッキーでもない。
当たり前の結果だと思う。
判決は9時50分に、法廷で言い渡される。
朝の身支度、太朗のお弁当・・
いつもと変わらないことを静かに済ませる。
バァバも私も口数は少ない。
昨日はバァバが一人で大掃除をしたようだ。
水回りはどこもかしこも小奇麗になっていた。
そして朝から仏壇の扉が開かれている。
バァバの中で時は満ちたんだな。
そう感じた。
私は静かに仏壇の前に座る。
遠くの部屋で太朗が騒いでいる声が聞こえる。
声に出してみた。
「おじぃちゃん、もうお願いはせんで。」
「見届けに、ついてきて。」
おじいちゃんは微笑んでくれたと思う。
太朗を保育園に送り届けてから、その足で裁判所に向かう。
裁判所の駐車場、車内で身支度を整えた。
自分を奮い立たせるためにヒールを履く。
リップを3回塗り重ねた。
顏をあげると、となりにバァバの車がとまった。
合図をするわけでもなく、静かな横顔がまっすぐ前を見ていた。
私たちは20分も前に第8法廷の前に着いた。
長椅子に腰掛け、一息つく。
2分前になると、黒いガウンをきた書記官が現れ、私たちを法廷内に招き入れた。
その後すぐに、主人が入室した。
来るとは思っていなかった。
よくぞこれたものだ。
判決には、どちらの弁護士も来ていない。
通常は誰も出席せず、書面で確認することが多いと聞いていた。
そうしているうちに、ひらりと裁判官が現れた。
それは喪に服した、黒い蝶のよう。
静かに判決を読み始める。
抑揚のない、淡々とした、ごく小さな声で。
”養子縁組無効確認請求を認める。”
それは数秒の出来事。
ど集中している私ですら聞き逃してしまうほど。
そして、書記官が告げる。
「終わりましたよ。」
私の聞き間違いではないか?
いや、これは「勝訴」に違いない。
私は表情も失うくらい力が抜けた様子だったと思う。
その時、主人は、にやっと笑っていた。
最後まであの人が何を思うのか、、
到底計り知れず、ただただ気持ち悪い。
駐車場まで戻ってきて、
バァバが私の背中を大きくさすってこういった。
「よう頑張った。よう頑張った。」
「よかったな、ほんまによかった。」
「普通の人間やったらとっくの昔に病られてしまってたで。」
10時15分。
弁護士の先生からの着信。
結果を報告する。
「おー、よかったな。よし、よし。」
先生の声を聞いて緊張がほぐれた。
ただ、まだ、
バァバも私ももろ手で万歳をする気持ちではない。
判決の主文が届き、その内容を確認するまでは。
そして今日も粛々と1日が終わる。
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2018年2月7日 判決の日
2018年2月7日