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2017年8月17日(木) 越えられない壁

面会交流の本の一部を執筆をされている先生の事務所へ相談にいく。
相談の予約を取るまでは、「忙しいので受任できません。」という回答だった。
私はねばって予約を取り付けた。

事務所は、これまでにないほど立派なビルの一角にあり、室内には絵画があちこちに飾られ、調度品の数々にも品を感じる。
私の無理を聞いて相談を引き受けてくれた女性弁護士は物腰優しく、キレもあった。
これまでの経緯など説明が進む。
太郎が主人との面会で泣き叫び中断したこと、この結果によって面会させない方向に進むことはないと言われた。
さすがにはっきり言われると堪える。
「調停が最初に戻るということですか?」私の答えに「そうですね。」すぐさま返事が返ってきた。
「でも、この相手方の申立書読むと、子供に会いたいという以前にあなたへのいやがらせよね。子供に会うにはどうするか、という内容じゃないものね。」
私にすれば、やっとわかってもらえたか、という思いがした。

どうしたって面会交流においては、現在の裁判所が作る壁は越えられない。
面会交流における裁判所の実務そして、面会支援組織の実情など先生が語り始める。
・・よくわかっている。

先生の言葉をさえぎって私が口火を切る。
「壁は越えられないことはわかっています。これまでは、”先生がそういうのであれば”と我慢を続けてきた部分があります。」
「不本意なことも飲みました。DVを強く訴えてくれないことにもずいぶん傷つけられました。けれど今度は戦うものとして全速力でぶつかっていきたいと思っています。」
「先生には鎧や武器を与えてほしいんです。私には法律的な知恵がありません。どうかうまく戦い抜く知恵をさずけてください。」

「一緒にやっていきましょう。あなたは貫ける人だと思います。調停もご自身でされると自信になります。ご本人が一番わかっているのとですからね。私がサポートします。」
その一言で先生の心のかけらが読めた気がした。
私の生き方が認められたような錯覚になって喜びがあふれる。
先生には、調停での文書作りのサポートをお願いすることになった。
希望していた通りだ。

先生は、「たくさんの書類ありますね。一度目を通したいのでお借りしても良いですか。すぐに郵送で送り返しますね。」
私はそのスピード感と、弁護士としてのモチベーションに感動し、同時に安堵した。
7冊もの分厚いファイルを預けると、帰りのかばんは空気のように軽く、肩の荷が下りた。

「軽くなりました。・・こういうことなんですね。」

「・・そうですねぇ。そうあればよいのですが。」

深々とおじぎをして退室した。

 

 

夕ご飯、サバの味噌煮や、ほうれんそうのお浸しなど和食が並ぶ。
太郎の気分ではなかったらしく「サンドイッチは?サンドイッチが食べたい気分なんや。」とわがままを言う。
しかたなく、「ゆでたまごだけ作っておくから、明日ね!」私が答える。
太郎は泣きながらしばらくごねていたがあきらめ、長い時間をかけて夕食を終えた。

9時をまわり布団へ滑り込む。
暗闇の中、太郎が耳元でささやく。
「サンドイッチの用意した?ごめんね、ママ。」
ママは、
「ええよ。よく我慢したね。明日のお弁当はサンドイッチにしよね。」
太郎は、
「うん。朝も夜もね。へへへ。」
暗闇でかすかに見える表情はやすらかに微笑んでいる。

しばらくの沈黙の後、「たろう?ママはたろうがだいすきやで。」
ママは丁寧な独り言をつぶやいた。
太郎は、何も言わずママの手を取って握り、指を組んでつないだ。
そして暗闇に寝息が聞こえ始める。

太郎が手を放す時までママの手はずっとここにあるから。

いつか年をとってママが死ぬ瞬間には「ママぁ?」と、たろうの声がしたら最高だと思う。
そう想像したら涙があふれてきた。

 


 

 

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