保育園を出てくる太朗のリュックから父の日の似顔絵が飛び出していた。
「見ていい??」
ママが尋ねると、よそ見をしながら太朗が答えた。
「えーよー。」
ママはかがんで似顔絵を広げる。
太朗は離れはしないで足元の石を蹴っていた。
「へぇ!!じぃじに髭ないのに、髭描いたん?」
太朗が味気ない返事をする。
「そやで。」
母は強くなった太朗が頼もしく、うれしい。
「太朗のジョーク、おもしろいやん。」
すね毛も生えないじぃじには、
ありえないほどの立派なあごひげが描かれていた。
さかさまにしても顔が成立するようなけむくじゃらだ。
太朗が軽いジョークをかました理由が母にはよくわかる。
周りのみんなは真剣に父の絵を描いている。
一心不乱に。
太朗は、じぃじを描くように言われていた。
父の日なのに、なんだか、気合が伴わない。
悲しいほどのことではないけれど、ちょっと退屈だ。
そう。
だから、髭でもつけてやろうと思ったんだ。
きっと。
似顔絵を持って帰ると、じぃじは喜んだ。
太朗が、「パパの顔しらんから、じぃじ描いた。」
と説明したとき、
じぃじが小さく震えたのをママは見逃さなかった。
愛おしい孫がみじめに思えたのだろう。
それでもママは大丈夫だ。
太朗も大丈夫だ。
へーき、だ。
太朗が自分の言葉で説明できるということは、
ちゃんと消化できているということだから。
今晩は、じぃじと太朗のほたえあい(じゃれあい)が長い。
太朗はすこぶる嬉しい顔をしてじぃじに飛びついている。
パパがいなくても子供はまっすぐ育つ。
「パパがいないから」は理由にならない。
無いものを埋める方法はいくらでもある。
ママはそう信じて生きていくよ。
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2018年6月19日(火)ぢぢの日の似顔絵
2018年6月19日